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東京地方裁判所 昭和40年(ワ)6360号 判決 1967年2月21日

原告 村田徳三

右訴訟代理人弁護士 村上信金

同 本田稔

右訴訟復代理人弁護士 布施園子

被告 新井藤作

<ほか二名>

右・被告三名訴訟代理人弁護士 伊豆鉄次郎

主文

一、被告新井藤作は別紙第一物件目録記載の土地につき訴外Aの原告に対する期間の定めなく賃料一ヶ月金三五〇円とする賃借権が存在しないことを確認する。

二、被告Bは、原告に対し別紙第二物件目録記載の建物を収去して、同第一物件目録記載の土地を明渡しかつ昭和四〇年一二月八日以降右土地明渡済に至るまで一ヶ月金三五〇円の割合による金員を支払え。

三、被告日邦家庭電器株式会社は、原告に対し別紙第二物件目録記載の建物のうち、表側都電通りより向って左側の一階三坪の部分から退去して同第一物件目録記載の土地を明渡せ。

四、訴訟費用は、被告等の負担とする。

事実

第一、原告の申立

一、請求の趣旨

(一)  主文第一ないし第四項同旨の判決

(二)  主文第二ないし第四項につき仮執行の宣言を求める

二、予備的請求の趣旨

(一)  被告Bは、原告に対し、昭和四一年一二月六日限り、別紙第二物件目録記載の建物を収去して、同第一物件目録記載の土地を明渡し、かつ昭和四一年一二月七日以降右土地明渡済みに至るまで一ヶ月金三五〇円の割合による金員を支払え。

(二)  被告日邦家庭電器株式会社は、原告に対し、昭和四一年一二月六日限り、別紙第二物件目録記載の建物のうち、表側都電通りより向って左側の一階三坪の部分から退去して、同第一物件目録記載の土地を明渡せ。

(三)  訴訟費用は、被告の負担とする。

との判決を求める。

三、請求原因

(一)  原告は、別紙第一物件目録記載の土地(以下本件土地という)の所有者であるが昭和二六年七月、訴外Aに対し、本件土地を期間の定なく賃料一ヶ月金一五〇円の約で賃貸しその後右賃料は、一ヶ月金三五〇円に改定された。

(二)  訴外Aは、本件土地を敷地とする別紙第二物件目録記載の建物(以下本件建物という)を所有していたところ、昭和三六年一二月二〇日、訴外上田勉に右建物を売渡し昭和三八年一一月四日右売買を原因として本件建物の所有権移転登記を完了してその敷地たる本件土地の賃借権を無断譲渡した。次いで、訴外上田は、さらに被告Bに、昭和三九年一〇月一九日本件建物を売渡し、同日右売買を原因として本件建物の所有権移転登記を完了してその敷地たる本件土地の賃借権を無断譲渡した。

(三)  訴外Aは、昭和三九年一〇月一五日、東京地方裁判所において破産宣告決定を受け、被告新井藤作がその破産管財人に選任された。

(四)  原告は、訴外Aの破産管財人である被告新井藤作(以下被告破産管財人という)に対し、昭和四〇年一二月七日到達の内容証明郵便をもって、本件土地について、訴外Aから、訴外上田に対する賃借権の無断譲渡、および、訴外上田から、被告Bに対する賃借権の無断譲渡を理由とする原告と訴外A間の本件賃貸借契約解除の意思表示および、訴外Aの破産を理由とする右本件賃貸借契約の解約申入れの意思表示をした。

(五)  被告Bは、本件建物のうち、表側都電通りより向って左側の一階三坪の部分を昭和三九年一〇月三〇日頃から被告日邦家庭電器株式会社(以下日邦家庭という)に占有して営業をさせその余の部分は、被告Bにおいて居住している。

(六)  よって、原告は、被告等が原告に対し、訴外Aの賃借権を主張して、原告の明渡しの要求に対して争うので被告破産管財人に対し本件賃貸借契約の前記の解除あるいは解約の申入れを理由として訴外Aが、原告に対し、本件土地につき、賃借権を有していないことの確認を求め、被告Bに対し本件建物を収去して、本件土地を明渡しかつ本件賃貸借契約解除の日の翌日である昭和四〇年一二月八日以降右土地明渡済に至るまで同被告の明渡義務遅滞により原告の蒙っている一ヶ月金三五〇円の割合による賃料相当の損害金の支払を求め、被告日邦家庭に対し、本件建物の占有部分から退去して本件土地の明渡を求める。

(七)  なお予備的請求として、被告Bに対し、訴外Aの破産を理由とする原告と同人間の本件賃貸借契約解約により、昭和四一年一二月六日限り、本件建物を収去してその敷地である本件土地を明渡すこと、および、原告は、本件土地賃貸借契約解約期間満了の日の翌日である昭和四一年一二月七日以降右土地明渡済に至るまで同被告の明渡義務遅滞により原告の蒙っている一ヶ月金三五〇円の割合による損害金の支払を求め、被告日邦家庭に対し、本件建物の占有部分から退去して本件土地を明渡すことを求める。

四、被告等の抗弁に対する原告の答弁

(一)  被告破産管財人の確認の利益がないとする本案前の抗弁は否認する。

(二)  被告等主張の本案についての抗弁事実中、被告Bと訴外Aとが、被告等主張の各年月日に婚姻し、また協議離婚したこと、被告Bは、訴外Aが、原告から本件土地を賃借した当時より現在に至るまで引続き本件建物に居住していることのみ認め、その余は全部否認する。

(三)  本件土地賃貸借についての訴外Aの背信行為は、本件各無断譲渡行為のみにとどまらないのであるから、原告の本件土地の賃貸借契約解除の意思表示は、その効力を生じている。すなわち、

原告は、昭和二〇年頃から本件土地を、訴外山中某に賃貸していたところ、訴外Aは、同人から、原告の承諾を得ないで本件土地上に存する平家建バラックと本件土地の賃借権を譲受け、原告の再三の明渡要求にもかかわらず、強引にいすわった。そこで原告は、本件土地賃借権の譲渡を、右平家建バラックを改築しないことを条件として承諾した。ところが訴外渡辺は右約定に反して昭和三四年一〇月頃右平家建バラック建物の増改築工事を行い、本件建物としさらにその後訴外上田に対して本件建物を譲渡して本件土地の賃借権を譲渡するに至ったものである。

第二、被告等の申立

五、請求の趣旨に対する答弁

(一)  主たる請求の請求の趣旨に対する答弁

(1)  被告破産管財人の本案前の抗弁

原告は被告破産管財人に対し、本件土地につき、訴外Aの原告に対する賃借権が存在しないことの確認を求めている。しかしながら被告破産管財人は訴外Aが過去において本件土地につき賃借権は有していたことを主張するが、現在においては原告が主張するとおり右賃借権を有しないことを認めているのである。元来確認の利益は、原告の権利または法律関係に現存する不安危険を除去するために、一定の権利関係の存否を、反対の利害関係人である被告との間で判決によって確認することが必要かつ適切である場合に認められるものであるから、本件のように当事者間でその権利関係の不存在について紛争が存しない場合には、原告の権利または法律関係に現存する不安危険は存しないのであるから、それらを除去するために判決によって確認するということは全く無意味であり、したがって確認の必要も利益もないというべきであり、右請求は権利保護の利益を欠缺する不適法な訴であるから却下さるべきものと解する。

(2)  本案について原告の被告B同日邦家庭に対する請求はいずれもこれを棄却する。

(3)  訴訟費用は、原告の負担とする。

との判決を求める。

(二)  予備的請求の請求の趣旨に対する答弁

(1)  原告の被告等に対する請求は、いずれも棄却する。

(2)  訴訟費用は、原告の負担とする。

との判決を求める。

六、請求原因に対する認否

原告主張の請求原因事実は、全部認める。

七、抗弁(賃借権の譲渡を理由とする原告の解除の意思表示がその効力を生じない特段の事情の存在)

(一)  訴外Aは、昭和三六年一二月二〇日、訴外上田から、金八〇万円の金融を受けた際、その担保とする趣旨で、本件建物を、代金八〇万円、買戻期間昭和四三年一〇月一〇日までの約で買戻約款付売買契約を締結した。

よって、本件建物の譲渡は、右に明らかなごとく、終局的移転を目的とするものでないからこれに伴う本件土地の賃借権の譲渡もまた終局的移転を目的としないから、民法第六一二条による賃貸人の承諾を要する賃借権の譲渡に該当しない。

(二)  仮に、借地上の建物の右買戻約款付売買契約による賃借権の譲渡についても原告の承諾が必要であるとしても、訴外Aの妻であった、被告Bは、昭和三九年一〇月一九日、訴外上田に対し、本件建物の買戻権を行使し、その後原告は昭和四〇年一二月七日、無断譲渡を理由として、本件土地の賃貸借契約の解除の意思表示をなしたものであるが、これは、解除の原因の止んだ後になされた解除の意思表示であるから、その効力を生じない。また本件譲渡行為は買戻権の行使者が、賃借人であった夫ではなくその妻である点を除けば右契約解除の意思表示前にすでに原状回復され、現在は、違法な状態は存しない。すなわちこれは結果的には、夫である訴外Aから、妻である被告Bに本件土地の賃借権が譲渡されたもので、訴外Aは、被告Bと昭和二五年八月二六日婚姻届出をし、昭和三九年一〇月一九日同被告と協議離婚が成立し、その際財産分与として、被告Bに本件建物の買戻権を譲渡したことによるものである。

被告Bは、訴外Aが、原告から、本件土地を借り受けた際、同人の妻として、本件契約につき原告と交渉を行い、以後現在に至るまで引き続き、本件建物に居住しているものである。

以上の如き譲渡の経過事情、使用状況実質上の譲渡当事者が結果的には、夫婦であったことを総合すれば、本件建物の譲渡に伴う本件土地の賃借権の右各譲渡行為は、必ずしも原告に対する背信行為とはならない特段の事情があるというべく、従って、原告の本件土地の賃貸借契約を解除する旨の意思表示は、その効力を生ぜず、かかる場合は、賃貸人の承諾を得た適法な賃借権の譲渡がなされたと同様の効果を付与せられ、被告Bは訴外Aから譲受けた本件賃借権をもって原告に対抗しうるものである。

八、証拠≪省略≫

理由

一、よって先づ被告破産管財人の原告の同被告に対する賃借権不存在確認の請求は権利保護の利益を欠缺するとの本案前の抗弁について判断する。

(一)  原告は、本件土地の所有者であって、昭和二六年七月頃訴外Aに対しこれを期間の定めなく賃料は一ヶ月金一五〇円、その後一ヶ月金三五〇円と改訂して賃貸したこと、訴外Aは本件土地を敷地として本件建物を所有していたところ昭和三六年一二月二〇日訴外上田に右建物を売渡して昭和三八年一一月四日右売買を原因として本件建物の所有権移転登記を了し次いで、訴外上田は、被告Bに、昭和三九年一〇月一九日本件建物を売渡し同日右売買を原因として本件建物の所有権移転登記を了してそれぞれその敷地たる本件土地の賃借権を順次譲渡し、被告Bはその後本件建物のうち表側都電通りより向って左側一階三坪の部分を、被告日邦家庭に占有して使用させその余の部分を同被告において占有して居住していること、また訴外Aは、昭和三九年一〇月一五日、東京地方裁判所において破産宣告決定を受け、(同庁昭和三九年(フ)第三〇〇号破産宣告申立事件)同日被告新井藤作がその破産管財人に選任されたこと、および、原告は、訴外Aが自己の財産についての管理処分権を喪失したので被告破産管財人に対し、昭和四〇年一二月七日到達の内容証明郵便をもって破産財団に属する本件土地賃借権に関する管理処分権限を有する当事者適格者として訴外Aが無断で右賃借権を訴外上田に譲渡したことおよび同人がさらに被告Bに対してこれを譲渡したことを理由とする本件賃貸借契約解除の、および、仮りに右無断賃借権の譲渡による契約解除の主張が認められないときを慮って訴外Aの破産を理由とする賃貸借契約の解約申入れの各意思表示をしたことは当事者に争いはない。

従って被告破産管財人は訴外Aは本件土地賃借権を破産宣告を受ける以前に既に訴外上田あるいは被告Bに譲渡しており破産財団に属しない財産であり被告破産管財人において訴外Aに右賃借権の存在しないことを認めておる旨主張するに対し、原告は訴外Aとの間の本件土地の賃貸借契約は原告において訴外Aが訴外上田あるいは被告Bに対し無断譲渡したことを事由として破産財団に帰属した訴外A(破産者)所有の本件土地の賃借権につき被告破産管財人に対し賃貸借契約の解除あるいは同人の破産による解約の申入れをして、契約が消滅あるいは終了するに至ったものでそれまでの間存続していたものであるとして当事者が互に相矛盾する主張をしていることが明かである。

(二)  ところで賃借権の譲渡につき賃貸人が承諾したときは賃借人(譲渡人)は契約関係から離脱して新たに賃借権の譲受人が譲渡人に代わり新たな賃借人として賃貸人と契約上の当事者たる地位に立ち当事者の変更を生じる。すなわち賃貸借の譲渡についての賃貸人の承諾は使用関係の変更ならびに契約上の当事者の変更についての承諾が含まれているとみるべきである。

しかしながら賃借権の無断譲渡につき賃貸人にこれを理由とする賃貸借契約の解除権の発生を阻止される特別の事情があって、例外的に賃借権の無断譲渡をした賃借人やその相手方である譲受人が救済され、譲受人が賃貸人に対して右無断譲渡をもって対抗しうる場合にも賃貸人の承諾がない以上譲受人においていまだ賃借権を有効に取得したものでなく権利関係の不安定な状態が続くので賃貸人の利益を擁護するため賃貸人に対する関係では原賃借人は依然契約当事者たる地位にとどまり、原賃借人と賃借権譲受人とが賃料の支払については併存的に不真正連帯債務を引受けるものとするか、あるいは原賃借人賃借権譲受人間に賃借権の譲渡ではなくて転貸借が存するがごとく取扱う必要があると解せられている。

(三)  そうだとすれば、前記認定の賃借権の各無断譲渡による原告と訴外Aとの間の本件土地賃貸借の存続時期、右賃貸借を前提とした同人の訴外上田に対する賃借権の無断譲渡さらに、同人から被告Bに対する賃借権の無断譲渡による賃貸借契約当事者の交替の有無、訴外Aの原告に対する債務(責任)関係等確実な予測の極めて困難な右無断譲渡につき賃貸人たる原告に対抗しうべき特別事情が果して存するや否やの判定が必要となり、かつこれらはまた相被告である被告B同日邦家庭に対する本件土地明渡請求の当否を判断する基本の法律関係ともなるから、被告等主張のとおり、訴外Aの、訴外上田あるいは被告Bに対する賃借権の無断譲渡に伴い被告破産管財人自身が賃借権の不存在を認めていて形の上では一応過去の争のない法律関係であるように見えるけれども、これにより前記原告と訴外Aとの間の賃貸借契約の存続期間、賃借権の各無断譲渡に基づく契約の解除、あるいは、訴外Aの破産による解約申入れの成否等係争の法律関係を確定しうるものでもない。かえって原告と訴外Aとの間の右継続した賃貸借関係の変動による内容の不明確から生ずる原告と被告破産管財人間の現在の法律上の地位の紛争に帰着するので、原告がその危険や不利益を除去するため、その基本たる賃借権の存否、内容等の権利関係につき確認判決の既判力を得ることが必要かつ適切であって即時確定の利益あるものというべく、本訴賃借権存否確認の訴を提起することを許容せらるべきであり、何ら不適法ではない。よって被告等の訴訟要件欠缺を主張する本案前の抗弁は理由がない。

二、本案につき、原告主張の請求原因事実については被告等は認めて争わないところである。

被告等は本件土地の賃借権の各無断譲渡はこれを背信行為と認めるに足りないとする特段の事情があるので賃貸人に解除権が発生せず被告Bは本件土地の賃借権の譲受をもって原告に対抗しうると主張するので以下この点につき判断する。

(一)  被告Bは訴外Aと昭和二五年八月二六日婚姻届出をし昭和三九年一〇月一九日同人と協議離婚の届出をしたが右Aが原告から本件土地を賃借した当初から引続き現在に至るまで本件家屋に居住していることは当事者間に争いがない。

≪証拠省略≫によれば、訴外Aは、訴外上田から金八〇万円の融通を受けることになり昭和三六年一二月二〇日同人に本件建物を代金八〇万円にて売却し買戻期間を昭和四三年一〇月一〇日までとする買戻約款付売買契約を締結し昭和三八年一一月四日同人のため売買による所有権移転登記がなされたが本件建物および本件土地の賃借権は終局的移転を目的とするものでなく担保の目的とせられたこと。本件土地の原賃借人である訴外Aは前記協議離婚の届出以前から本件建物より立ち退き同人自身本件土地を事実上使用しておらず被告Bは、訴外Aと右協議離婚をなした際同人が訴外上田に対して有する右買戻権を離婚による財産分与として譲受け、協議離婚届出の当日である昭和三九年一〇月一九日訴外上田に対し、売買代金八〇万円および契約費用七万円合計金八七万円を支払って、買戻権を行使して、本件建物の所有権を取得し同日被告のため売買による所有権移転登記がなされ、被告Bが右買戻権を行使した直後から表側都電通りより向って左側の一階の一部分を同人が代表取締役、訴外上田が取締役をしている被告日邦家庭に占有させ会社形態として家庭電気器具販売を営みおることを認めることができ、他に右認定を左右するに足る証拠はない。

従って訴外Aの妻であった被告Bは原告から訴外Aに対し本件土地賃貸借契約の解除あるいは解約の申入れのなされた昭和四〇年一二月七日より既に一年余以前に訴外Aから従来同居していた家族の居住権を保護する趣旨で譲受けた買戻権を行使して終局的に本件建物の所有権を取得するとともに同人からさらに本件土地の賃借権を譲受けており、また夫であった訴外Aだけが本件建物から退去し本件土地の使用状況にはさして変更はなく賃貸人たる原告には格別不利益を与えなかったことになる。

(二)  しかしながら≪証拠省略≫を総合すれば、

訴外Aは昭和二六年春頃訴外山中某から原告の承諾なくして本件土地上の平家建バラックの建物を買受けるとともに本件土地の賃借権を譲受けた際原告の再三の立退き要求に応ぜず、かなり強引に事後承諾を得たこと、次いで昭和三四年頃原告との約旨に反して右平家建バラックの建物の増改築を行って本件建物としたがこれについても漸く原告の事後承認を得ていたこと、さらに前記認定のごとく訴外Aの離婚による財産分与として妻であった被告Bへ本件建物の買戻権を譲渡して本件土地の賃借権を譲渡したとはいえ別個の法主体への終局的の権利移転であるにかかわらず、民法第六一二条の規定を無視し、訴外Aからも被告Bからも賃借権の譲渡につき原告に諒解を得べく努力する等尽すべき処置をとった形跡は全くなく、被告Bは訴外Aが依然として賃貸借の当事者としての地位を保有するがごとく装って同人名義にて賃料を支払い本件建物の一部において前記認定の被告日邦家庭を設立して営業をなしおることを認めることができ、右認定を覆すに足る証拠はない。

以上(一)(二)の認定事実によれば訴外Aは本件建物において同居していた被告B等の家族の居住権を保護するため本件土地の賃借権を譲渡したことおよび賃貸人の承諾を受け得られないか、あるいは譲渡についての承諾料を要求されることを懸念したこと等を推知し得ないこともないが、他方賃貸人たる原告に対する関係では人的要素を重視する賃貸人の立場を顧慮せず法を無視した甚だ誠意を欠く賃借人の態度という外なく、賃貸人において賃借人の無断譲渡を理由とする契約の解除を許されないとする特段の事情があったものともいえない。

そうだとすれば、原告が訴外Aの破産を理由として破産管財人に対してなした賃貸借契約解約申入れの成否を判断するまでもなく無断譲渡を理由として昭和四〇年一二月七日、被告破産管財人に対してなした契約解除の意思表示は有効であって、本件土地賃貸借契約は解除されたものと認めなければならない。従って訴外Aの原告に対する本件土地の賃借権の存続を前提とする被告B主張の賃借権もまた原告に対抗しえず、両被告は原告に対し本件土地を明渡すべき義務がある。

しかして被告Bが訴外上田から本件建物の所有権を取得してその旨の登記を経由し本件土地を占有使用して原告に対し一ヶ月金三五〇円の割合による賃料相当の損害を蒙らしめており、また被告日邦家庭は本件建物の一部分を占有して営業を行い法律上の権原なくして本件土地を占有使用しているものといわなければならない。

叙上の説示により原告が被告破産管財人に対し本件土地につき訴外A(破産者)の原告に対する期間の定めなく賃料一ヶ月金三五〇円の賃借権の存在しないことの確認を求め、被告Bに対し本件建物を収去して本件土地を明渡しかつ本件土地賃貸借が解除された日の翌日である昭和四〇年一二月八日以降右土地明渡済に至るまで一ヶ月金三五〇円の割合による賃料相当の損害金の支払を求め、被告日邦家庭に対し原告主張の本件建物の占有部分から退去して本件土地の明渡を求める本訴請求はいずれも理由があるからこれを認容し訴訟費用の負担については民事訴訟法第八九条第九三条第一項本文を適用して主文のとおり判決する。

なお主文第二ないし第四項につき原告は仮執行の宣言を求めているがこれを許容することは相当でないと認められるから右宣言の申立を却下する。

(裁判官 石原辰次郎)

<以下省略>

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